私は親切である。

私は親切である。
ああそうか、彼女は顔の部品のバランスが不自由な人なのだな、と好意的に考える。優先席には「体に不自由な方」の項はあるが、顔の部品のバランスが不自由な方の項はない。一生懸命体の不自由そうなところをさがす。見つけた。腰のくびれに不自由な方の様だ。おまけに心も不自由そうだ。

私は親切である。
彼女の不自由な場所を探す時に見つけた。彼女の横に置いたバッグからキーホルダーが落ちているのを。
駅につき彼女はやおらバッグをとると降りていった。座席にはやはり気づいてはいないキーホルダーを残して。

私は親切である。
そのキーホルダーをつかみ、彼女の後を追って電車を降りる。そして彼女の後ろ姿を見ながら、駅員さんにこういった。
「これ、わすれものです」

私は基本親切である。満足げにエスカレーターで上がっていく、恐らくは自宅につき、鍵を落とした事に気がつくであろう彼女の後ろ姿を見送りながら私も気がついた。

買ったばかりの本4冊。網棚に残してきた事に。
先にわすれものとどけた駅員さんにこういった。
「すみません。今の電車にわすれものをしました。。。」

私は親切である。

私は親切である。
今日電車にのっていて、優先席のあたりにたっていた。そこそここんでいた。
優先席に女性が座っていた。その女性は、

糸こんにゃくの様な目をしていた。
上昇志向の強い鼻をしていた。
積極的な前歯をしていた。

足を組み、だるそうに髪型を気にしていた。そして、バッグを自分の横に置いていた。

目の前に年配の人が立っているのに。

風体などはどうでもよいが、バッグを横に置くという心根が気に食わぬ。

もう聴こえたの

昨日簡単な健康診断を受けた。毎年受けている本当にささやかな検査だ。

近所の個人病院に毛が生えた様な小さなクリニックで受けたのだが、担当した看護師さんは60年配のベテランの雰囲気ぷんぷんのおばさんであった。だが、この病院に来てまだ日も浅いのか環境には不慣れな様だ。

まづ、採血。
「採血で気分が悪くなった事とかありますかー?」と聞くので「ありません」と答える。
「おばあちゃんだからね。違うところに刺したらごめんなさいねー」
私の血管は採血しにくい。いつでも採血のときは血管にあたらず二度三度と針を刺される。出来れば違うところには刺してほしくない。
ところがそこはベテラン。一発で血管をあてる。
針を抜き絆創膏をだし「はい」と貼ってくれたのだが、針を刺したところから軽く1センチははなれている。
微妙な気分で身長を測りにいく。
看護師は身長計に私を立たせうんと背伸びをして測ってくれる。
「178センチね」
「え?」
私の身長は若干伸び続けてはいるものの175センチ以下である。身長を測る板状の部分はまだ私の頭に当たっていない。

わくわくしてきた。

聴力の検査の時、操作がわからぬのか機械をあれこれいじっている。
「では聴こえたらボタンをおしてね」
私はヘッドホンを耳にあてると、いきなり大音量のデジタル音が流れる。すぐにボタンを押すと
「あら?もう聴こえたの?」ときくので「いやすごく音が大きいですよ」と答える。「あら間違えたかしら?もう一度ね」
と再度測るものの先ほどの残聴でああろうか、ぴーぴーぴーと鳴り続け、ちっとも聴こえている気がしない。
「かなり耳が悪いの?」と聞くので、かくかくしかじか説明すると「あら、そうなの」と不服そうだ。

最後に心電図をとったのだが、ぱちぱちとあちこちにクリップや吸盤をつけ、機械をいじる。
操作に慣れていないのか、付けたものを外し再度装着。また機械をいじる。
そしてたちあがると隣の部屋に声をかける。

「先生、心臓が動いてません」